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ストーリー紹介|ドレッジ

Ocelot
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edited May 2022 in ニュース

 「フォールド」がアメリカのとある個人所有の島で匿名の慈善家集団によって結成されたのは、1960年代のことだった。邪悪な思考や感情のない、平和な社会の構築を目標に掲げるこの団体には、全国から絶望する者、失望する者、幻滅する者が集まってきた

 平和を愛するこの団体は長年にわたって成長し、メンバーはカリスマ的指導者であるオットー・スタンパーの命じるところに率直に従った。信奉者は、喜びを表す言葉、瞑想、そしてポジティブ思考のマントラをエンドレスに朗読することを通して幸福を維持するという秘訣を教わった。

 しかし、フォールドの内部もすべてが喜びに満ちているわけではなかった。オットーは、邪悪な考えを持っていることや邪悪な言葉を話していることを白状した者を早急に追放した。彼によってフォールドの監視係に任命された者は、不平不満を素早く一掃し、彼が築いた完璧に近いこの団体に反対するような考えを持つ者、そのような発言をする者を追い出した。

 オットーはこのようにしてオットーマリアンを調教し、邪悪な思考があらゆる不平不満の根源であると信じさせた。彼は「ドゥルーアニー」と呼ばれる古代神の話を持ち出し、この神がいかにして邪悪な記憶や欲望を肥やしにしているかについて話した。「影の国」から恐怖を呼び出すことを恐れる彼らの心から生じるあらゆる邪悪な兆候を、追い出さなければならないのだと。

 島の生活は理想郷の夢といったところだったが、そのうちスピリチュアルなダムの割れ目から闇がゆっくりと漏れ出しはじめ、メンバーによる不可解な失踪が起き始めた。

 ほどなくして、恐怖が島じゅうに伝染し、人々の心に居座った。

 かつて幸せだった島の人々は今や数件の家に集まり、ポジティブ思考のマントラを詠唱しながら、闇から忍び寄り、就寝中の自分たちを飲み込んでしまいそうな形のない生き物を必死に追い払おうとしていた。

 信奉者を鎮めようとしたオットーは、彼らに、この集団に存在する不満のせいで、「喜びの庭」にドゥルーアニーを呼んでしまったのだと言った。

 フォールドから悲しみの声が上がると、オットーは窮余の策を喚起し、うわさや邪悪な話題が広まるのを防ぐためにオットーマリアンたちを外出禁止にした。さらに、世の中に邪悪な夢が放たれないように、眠ることも禁止した。ドゥルーアニーが忍び寄ることがなくなれば、すぐに自由も睡眠も取り戻せる。

 ところがオットーマリアンの失踪は止まらず、オットーは信奉者らを浜辺近くに招集した。木製の壇上で女が叫んでいる。オットーは雨が降るなか、びしょ濡れで、疎外された寝不足の人々に向かって、この女は自分たちの築いたものをすべて壊しにやって来たジャーナリストであると説明した。

 監視係が震える女を抑え込むと、女は、オットーは本人が自称するような救世主ではないと叫んだ。彼は億万長者によって結成された排他的な古いカルト教団に入っていて、そこで彼らは人間や町、国までもを腐敗させ、旧神へ生贄として捧げているのだと言う。ジャーナリストの女は、皆に向かって言った。オットーは誰も追放などしていない、苦しめて生贄にしたのだ。次はあなたたちの番だと。

 女がこれ以上嘘を撒き散らす前に、オットーはためらうことなく女の喉を切り裂いた。女が両手で首を抑えながら膝から崩れ落ちるなか、困惑しておびえる群衆に向かって彼はこう言った。女はこの集団にいる裏切り者たちの協力者であり、自分たちはドゥルーアニーがやって来るその前にその連中を見つけ出す必要があったのだと。

 オットーの言葉が皆の心の暗い底まで届くと、邪悪で恐ろしいものが掘り返された。

 濃い霧が足元をかき分けて漂うなか、何年も抑制されていた感情が泡のようにブクブクと溢れ出る。ささやき声からはじまり、やがてそれがパニック状態のマントラとなって、そのマントラは「不満の思考と発言をしたのはお前だ」と責任をなすりつけ合う、メンバーの叫び声と罵り声に取って代わっていった。

 うなる風と打ち付けるような激しい雨のなか、必死に感情を抑えようとしながらも、皆の叫び声と罵り声はどんどん大きくなっていった。しかし頑張れば頑張るほど彼らの努力はあっさりと無駄になり、すぐにダムはものすごい激流となって一気に放出した。

 オットーは、かつて幸せで喜びに満ちていた信奉者に、突然見たこともないような暴力性が沸き起こった様子を見ていた。フォールドは互いを非難し合い、手や歯で相手を引き裂いて傷つけ合っている。彼らの親切でカリスマ的な指導者は笑みを浮かべながら、憐れむことなく、どんよりした冷たい眼差しで見下ろしていたが、誰も視線を上げて一度たりともそんな彼を見ることはなかった。

 すべてが終わった時、オットーは軋みを感じた。カラスの群れが頭上を旋回していて、木製の壇が揺れている。突然、地面が盛り上がったかと思うと、糖液のように黒く濃い泥となって沈んでいった。少したって、泥から形のない塊がビチャビチャと音を立てながら後ろ脚で立つ馬のように現れ、虐殺された人間の苦悶する塊を貪った。

 その物体はそこらじゅうにあるし、同時にどこにもなかった。それは大虐殺の現場を通り抜けてゆっくり進みながら、闇を吸収し、惨めさを味わい、恐ろしい騒音の後ろを辿っていった。悲鳴、叫び声、すすり泣き、破裂音、割れる音。

 ごちそうの音。

 死の音。

 邪悪な音。

 オットーがその生物を見ていると、それは、オットーが想像していたそのもの—信者に彼が想像させていたまさにそのものどおりに姿を変えていった。

 ドゥルーアニーは長く静かな時間をかけてゆっくりと向きを変え、オットーを見ると、黒く濃い泥の中を重い足取りで進みながら、もと来た影の中へと消えていった。

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